魔女と薬草(1)
2015年3月 3日
薬草などの有用植物は、人間が自分たちのために利用し、勝手に「有用」と名付けているだけで、植物そのものは人間のために存在しているわけではない。それなのに勝手に「これは恐ろしい毒を持った魔女の薬草」などと言われてはさぞ心外だろう。
☆ドイツスズラン(スズラン属)
日本のスズランも同じく、有毒植物である。釣鐘形をした可憐な花として愛されるが、実は全草(特に花や根)に毒がある
☆彼岸花(ヒガンバナ科)
別名曼珠沙華。お彼岸の季節になると炎のような赤い花を咲かせる。これも全草有毒である
激しい嘔吐、腹痛、発熱、ひどければ死に至る。このような症状は邪悪な魔女が「魔女の薬草」を使って起こしたにちがいないと信じられていた時代があった。「魔女の薬草」は、麻薬の代表であるケシやアサ、猛毒のドクニンジンなどほとんどが有毒植物である。
☆ヒヨス(ナス科)
葉や種子に強い毒性。幻覚や浮遊感覚
☆クリスマスローズ(キンポウゲ科)
冬に花が咲く。葉や根茎に毒。呼吸麻痺、精神錯乱。堕胎薬にも
「魔女の薬草」は主に殺傷用、飛行用、媚薬用軟膏の材料になった。魔女の飛行については当時の魔女論者でさえ意見が分かれるほど不確かなことだったし、空飛ぶ魔女を見たという証言はほとんど信用できないものだった。それでも多くの人は魔女の飛行を信じ、著名な画家たちもこぞって軟膏を塗って飛行する魔女の絵を描いた。
☆ハンス・バルドゥング・グリーン「軟膏を塗る魔女たち」
☆ダーフィト・テニールス(子)「サバトへの出発」1700年頃
☆「バスク地方の若い魔女」(年代、作者不明)
((2)へ続く)
- 西村佑子(にしむら・ゆうこ)
うお座。早稲田大学大学院修士課程修了。
青山学院大学や成蹊大学の講師を経て、現在はモアビートプロモーションの「ドイツセミナー」講師。
これまでに「グリム童話の魔女たち」展(栃木県いしばし町グリムの館)の企画・監修やドイツ魔女街道ツアーの同行講師、
薬草専門誌に連載記事を掲載するなど、ドイツの魔女と薬草にかかわってきた。
主な著書に『グリム童話の魔女たち』(洋泉社)『ドイツ魔女街道 を旅してみませんか?』(トラベルジャーナル)、
『魔女の薬草箱』『不思議な薬草箱』(いずれも山と溪谷社)、『ドイツメルヘン街道夢街道』(郁文堂)など。