魔女と薬草(3)
2015年3月20日
同じ薬草でも、人間に恵みを与えたり、害を与えたりする。たとえば、ベラドンナの実は数粒で致死量になるが、その成分は瞳孔を開き、鎮痛効果もあるので、眼の手術には欠かせない。カノコソウの根の臭さは鼻をつまみたくなるが、鎮静効果の高い薬草である。
☆ベラドンナ(ナス科)
筋肉弛緩、鎮静効果、瞳孔の拡散作用
☆セイヨウカノコソウ(オミナエシ科)
全草不快な臭い
☆カノコソウの睡眠薬
カノコソウの根から作られた精神安定剤。市販
チョウセンアサガオは神経を麻痺させるが、それは鎮痛効果抜群ということになる。和歌山紀州の華岡青洲が作り上げた全身麻酔薬の材料はこれを含む6種類の薬草だった。毒もさじ加減で、適量なら病に対して著しい効果を上げる。魔女の薬草か人間のためになる薬草かは調合次第である。
☆チョウセンアサガオ(ナス科)
種子。これが猛毒。神経麻痺や錯乱状態を引き起こす
☆エンジェルストランペット(ナス科)
チョウセンアサガオの仲間。花は似ているが、下向きに咲く。園芸用だが、有毒植物
薬草の持つ二面性といえば、マンドラゴラがすごい。古代には受胎効果のある媚薬として重宝されていたが、やがて引き抜かれるときに悲鳴をあげる恐ろしい魔女の薬草となる。この根を持っていただけで、魔女として捕まったケースもあるが、同時に魔除けとして高値で売買されもしたようである。
☆古代のエジプトのネックレス。上から、マンドラゴラの実、ナツメヤシの葉、ロータスの花びら(大英博物館・ロンドン)
☆有名な言い伝えを描いたマンドラゴラ堀り(14世紀末)
☆根に服を着せて、人間に似せた魔除けのマンドラゴラ(ドイツ博物館・ミュンヘン)
次回をお楽しみに。
- 西村佑子(にしむら・ゆうこ)
うお座。早稲田大学大学院修士課程修了。
青山学院大学や成蹊大学の講師を経て、現在はモアビートプロモーションの「ドイツセミナー」講師。
これまでに「グリム童話の魔女たち」展(栃木県いしばし町グリムの館)の企画・監修やドイツ魔女街道ツアーの同行講師、
薬草専門誌に連載記事を掲載するなど、ドイツの魔女と薬草にかかわってきた。
主な著書に『グリム童話の魔女たち』(洋泉社)『ドイツ魔女街道 を旅してみませんか?』(トラベルジャーナル)、
『魔女の薬草箱』『不思議な薬草箱』(いずれも山と溪谷社)、『ドイツメルヘン街道夢街道』(郁文堂)など。