「今年勝てなかったらゴルフを辞めようと思っていました」中京テレビ・ブリヂストンレディースオープン。上田桃子が8バーディー1ボギーの通算16アンダーで3年ぶりのツアー優勝を果した。
ここ3年間、上田は優勝から遠ざかっていた。「自分はこんなに調子が良いのに勝てない、いつ勝てるんだろう?」4月地元熊本で開催されたKTT杯バンテリンレディースではプレーオフで2打目を池に入れ敗れた。熊本でのダメージは大きく、「また勝てないんじゃないか?」という不安が頭を過った。「昨夜は1~2時間くらいしか眠れませんでした。目が覚めてパターの練習をしたり…」眠れず夜中にコーチに連絡したらLINEが届いた。「これだけ練習してきたんだから大丈夫だよ」そこには昨年弟子入りした元プロ野球ヤクルト監督、故荒川博氏の日記が添付されていた。「力が湧いてきました」
“近くて遠い優勝”「今年、勝てなかったらゴルフを辞めようと思っていました。プロである以上“勝ち”に拘れなくなったら終わりだと思っている。自分の中でけじめをつけたいと思っていた。オフに周りの人達にも話して理解してもらっていました」と爆弾発言が飛び出した。
1打差で迎えた18番ホール。「セカンドを打ったときグリーンから凄い声援が聞こえてきた」オーバーしたかに見えたボールは池の手前、グリーンエッジで止まった。強い気持ちで打った8mのパットはカップに吸込まれた。バーディー上りの最高の優勝だった。
「コーチだったりトレーナーだったギャラリーだったり、自分を支えてくれた人達の力が今日決めさせてくれたのだと思います。まだ頑張れるし、頑張らなきゃと思いました。」そんな上田桃子の更なる活躍を期待してこの記事を書いていると…日本中をビックリさせるニュースが入ってきた「宮里藍、今季限りで引退へ」!!!
5月26日、宮里藍が今シーズン限りで引退を表明したのだ。今回、若手新人選手について書くつもりだったが急遽変更。29日の記者会見の様子を伝えよう。
─引退を決意したのはいつ?理由は?
「昨年11月です。モチベーションの維持が難しくなったのが決め手です」「2009年から4年間勝ち続けてナンバーワンになったり、プロゴルファーとしてもピークを迎えているのを感じていて調子も良い。それなのにメジャーで勝てない。こんなに調子が良くて自信のあるときにメジャーで勝てないのなら次はどうしたらいいのだろう…と考えてしまい、そこで一度立ち止まってしまい自分を見失ってしまった。そこからモチベーションを立て直すことで凄く悩みました」。
大活躍するもアメリカツアー優勝だけではなく“メジャー優勝”という目標を掲げてきた宮里にとって受け入れ難い現実を突きつけられたのだった。
「どうしたらいいのか分からなくなって、4年ほど前からメンタルコーチにも相談していました、“誰でもそういう時期はあることだから焦らなくてもいいじゃない。模索してみればいいんじゃないか”というアドバイスをもらい、4年間模索しながら試行錯誤したが自分の思うような形にならなかった。このまま何とかやっていく事はできますがプロである以上は結果を残したい…。自分の理想とする姿でなくなったのでこういう結果になりました」。
ううん…ここまではっきりと分かりやすく説明されるとファンとしても納得せざるを得ない。
─目標とするメジャーに勝てていないが?
「思わぬ形で世界ナンバーワン(米賞金ランク1位)になれたことも大きかった。まだ年内メジャーに出場するチャンスは残っているしまだ諦めてはいないです。最後勝って終わりたいというのが今のモチベーションになっています」
─プロ宣言して14年、どんなゴルフ人生だった?
「ほんと思っていた以上の結果が出て、これ以上のゴルフ人生はないと思っています。競技者としての引き際の寂しさよりもこんなに大勢の人にサポートしていただき、感謝の気持ちを胸に、選手として今シーズン戦えるということは、すごく幸せなことだという思いを今噛みしめているところです。」
─少し休んで復帰とかはありえる?
「第一線でやって行くには凄いエネルギーが要る。プロの世界はそんな甘いものじゃないですし、自分で限界を感じてしまっての決断なので今の所考えてないです」
─第二の人生は?
「まだ何も決まっていません。まだ今シーズンも残っていますし、現役を引いてみないと何が出来るか分からないと思う。年内は残りの試合にエネルギーを注ぎたい」
─結婚は?
「今のところありません」
─これからの若手選手に伝える思いは?
今はゴルフの上手い若い選手が多い。技術的にも、フィジカル的にも恵まれている選手がたくさんいてこれから楽しみだなという選手もいっぱいいる。アメリカツアーをやっていて、今の日本女子ゴルフ界は凄くいい所にあると思う。それを客観的に見ていると逆に危機感がある。それが永遠に続くことはないと思うので、若い選手達にはちゃんとプロ意識を持って支えてくれる方々に感謝の気持ちというものがあればずっと続いていくと思うので、その“軸”をぶれずにやってもらいたいと思います」
─マスコミや関係者にも真摯に誠実に向き合ってくれました。
「自分ではあまり意識したことではないですが、常々父からはプロゴルファーである前に普通の人でありなさいと言われて育ってきたので、自分なりに皆さんに誠意を伝えてきたつもりですし、それがいい形になっているのであれば父の教えが良かったのだと思います(笑)。」
─思い出の試合は?
「ぱっと浮かんだのがアマチュアで勝った宮城テレビ杯ダンロップ女子オープンです。自分の中でターニングポイントになった試合でしたし、あの試合なくして今の自分はないです。アメリカツアーではエビアンマスターズです。4年かかってもぎ取った優勝だったので…」
今年はアメリカツアーに参戦してから、異例の4試合も日本ツアーに出場している宮里藍。その変化に“おやっ”と気づいていたファンも多いだろう。
─中京テレビ・ブリジストンレディースオープンでは最終日6連続バーディー64。強い藍ちゃんが帰ってきたと思っていましたが…
「今は1試合でも多く良いプレーをして一人でも多くの方に恩返ししたいという気持の表われがそのプレーに繋がったと思っています。シーズン初めから手ごたえはあったので、それがああいう形で良いプレーをお見せできたので素直に嬉しかったです」
座右の銘は“意志ある所に道はある”
以上会見の内容だったが、上田桃子の“勝ちへの拘り”宮里藍の“自分の理想とする姿”どちらも一流プロとしての矜持への拘りなのだろう。まだ30歳と31歳。このまま続けてもプロとして難無くやっていけるだろうし、またいつか優勝できるかもしれない。しかしそれは彼女たちにしてみれば理想の姿では無いのだ。“ただ単にプロで食べていく”ことと“トッププロであり続ける”ことの違い。第一線で活躍できなくなれば“ケジメ”をつける。これは彼女達超一流の流儀に他ならない。因みに宮里の兄、優作曰く“80歳まで頑張る。最後まで立っていた者の勝ちだから”なるほど、これも一つの流儀。男女の立場の違いもあると思うが、一つ言える事は、前者は物凄いエネルギーがいるが後者は失礼ながら“気楽”でもある。あっ、そうだ…私は後者の方で行こう…
2017年06月16日