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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

阿蘇の秘湯 白川源泉 竹ふえ

阿蘇の秘湯 白川源泉 竹ふえ

 夏休みの旅行といえばビーチリゾートに傾きがちだが、多忙な日々と街の喧騒からふと逃亡したくなり、今年は趣きを変えてしっぽり山奥の温泉旅館に行きたくなった。
 条件はたっぷりのマイナスイオンと雄大な景色が臨めること。
 そこで白羽の矢が立ったのが、熊本・阿蘇。小学校の頃、国語の教科書で阿蘇の草千里の情景を見て以来、訪れてみたいと思いつつ一度も足を踏み入れたことがなく、幼少の頃からの憧れの地であった。

 阿蘇周辺には、湯布院や黒川温泉など、日本の名湯と名高い温泉が複数点在するのは承知の通りだが、今回の目的のひとつである「マイナスイオン」を求めて宿泊先に選んだのが白川温泉の宿、『竹ふえ』である。熊本空港から約1時間半、阿蘇の山々からも1時間弱かかる、まさに「秘境」の宿である。
 空港からレンタカーで向かったその宿、幹線道路を外れて本当にこんなところに温泉宿が?と疑いたくなるような山道を進み、鬱蒼とした竹林の中に突如現れる。マイナスイオンが目に見えるようだ。

 思わず口を開けて見上げてしまうような立派なしめ縄のかかった門をくぐり、竹林に囲まれた石の階段を下ると思いのほか小ぢんまりとした帳場が迎えてくれる。そこで豊富な種類の浴衣から好みのものを見繕い、早速部屋へと向かう。4000坪という広大な敷地にたった11室しかないこの宿で、今回私たちが宿泊したのが「竹霧」という帳場に一番近い部屋だった。まるで一軒家のような立派な玄関を上がると、掘りごたつの囲炉裏スペース、その先の障子を開けると広い和室が広がる。その奥に進むと、離れのような岩風呂の内湯が目に飛び込む。和室からも内湯からも、広く切り取られた窓から竹林が臨めることにテンションが上がる。

 各部屋に内風呂や専用露天風呂がついているが、それに加え4種類の貸し切り露天風呂があると聞き、貸し切り露天風呂の中でも一番広い「竹林の湯」へと向かう。竹ふえの豊富に湧き出る温泉は自家源泉。泉温が68度を超える源泉は、「湯番頭」さんが毎日季節ごとの設定温度に合うよう調整して供給する。さらに、各個人の好みの温度に合わせられるよう、温泉には源泉が出るバルブと、「竹林水」と呼ばれる地下水が追加できるバルブが用意されており、自由に温度調整ができるようになっている。
 ちなみにこの「竹林水」、日本の名水100選にも選ばれている湧水で、館内で使用できる蛇口から出てくる水全てがこの名水なのである。何とも贅沢である。

 お風呂の後は、お楽しみの夕食である。
 食事は朝夕とも、部屋の囲炉裏に用意される。目にも美しい竹細工の器がふんだんに使われた食卓には、目にも美しい八寸から始まり、新鮮なお造りや活鮑の炭火焼き、豊後牛のしゃぶしゃぶなどが次々と運ばれ、気分は殿様である。満腹になりかけたころ、かぐや姫を彷彿させる竹筒が運ばれてきた。囲炉裏部屋の照明が落とされて日の目を見たそれはなんと、締めの松茸ご飯。竹をテーマにした宿ならではの、心憎い演出である。さらに別バラと言い訳しながら、わらび餅やクリームブリュレのデザートまで平らげた贅沢な晩餐であった。

 夜の竹林を眺めながら内風呂にゆっくり浸かり、好みのアロマオイルに癒されながら爽やかな睡眠を十分にとったあとは、朝食である。一人付きっきりになって火の番をするという、ぴかぴか炊きたての土鍋炊きご飯。それだけでもおいしいのに、豊富な副菜にますます箸が進む。

 そして満腹のお腹を抱えて向かった先は、旅のもう一つの目的である阿蘇・草千里。ひたすら続く牧草地帯、突如現れる牛や馬の草を食む姿。日ごろ近眼になりそうな景色の中で生活している身からすると、圧倒的な非日常感である。何もない。でも、それが一番旅情を感じられるキーワードなのである。

 日ごろ頑張っている自分へのご褒美のつもりで宿泊した今回の宿。しかし、館内にドリンク類・ジェラートが無料で用意されていたり、お土産にバームクーヘンをいただいたりと、ソフト・ハード面のサービスが完璧なのである。その結果、これまで滞在した宿の中で5本指に入るに間違いないほどのコストパフォーマンスの高さであった。

 帰ったら誰かに分けてあげたいと思えるほどにふんだんなマイナスイオンを胸いっぱい吸い込み、宿での身に余るほどの手厚いおもてなしに心温められながら、来年の夏はさて、ビーチリゾートに行くべきか、はたまたまた熊本に行くべきか、と贅沢な悩みを抱えつつ、帰途についたのだった。

【白川源泉 竹ふえ】
住所: 〒869-2402 熊本県阿蘇郡南小国町大字万願寺5725-1
電話: 0570-064-559
アクセス
 名古屋(中部国際空港)-熊本空港
 車の場合: 熊本空港(R57経由) 約1時間20分
 公共交通機関: 熊本空港-(九州横断観光バス(別府行き))-黒川温泉・・・黒川温泉バス停より無料送迎有
泉温(源泉): 68.1度(PH値:6.41)
泉質名: ナトリウム一塩化物・炭酸水素塩・硫黄塩泉
色・味・匂: 黄色・硫黄臭
効能(入浴): 神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後復期、疲労回復、健康増進、動脈硬化症、きりきず、やけど、慢性皮膚病、慢性婦人病、虚弱児童
料金: 32,000円~(一泊二食付き:大人料金)
公式HP: http://www.takefue.com/

2013年08月28日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!