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高泉質を味わう故郷 福地温泉

高泉質を味わう故郷 福地温泉

 5月に入っても満開の桜と雪景色を両方満喫でき、温泉にも入れる贅沢なところ・・・あるんですね、しかも身近に。奥飛騨温泉郷の中でもかの有名な泉質を誇る、福地温泉へと足を延ばした。

 雪のかかった真っ白な北アルプスを眺めながら車を走らせる。高山市街よりちょうど1時間、福地温泉へ到着した。昔は農家ばかりだったというこの集落、今はその14世帯のうち12世帯が温泉旅館として軒を連ね、各々が趣のある雰囲気で営業し、温泉ファンを魅了して止まない。

 今回宿泊した宿 元湯孫九郎(もとゆまごくろう)は、今の女将さんのおじいちゃんがこの界隈で初めて源泉を引き、農家から一発奮起して始めた旅館である。それ故、宿名に「元湯」がついており、「孫九郎」は先代の名前とのこと。特に内湯は自家専用泉で、その泉質はこの宿でしか味わえない。

 宿に着くと、満開の大きな桜の木がお出迎えしてくれた。農家の趣を残した建物の中に入ると、燃える囲炉裏がいい雰囲気を醸し出す。5月に入ったとはいえ肌寒さを感じながら、まずは内湯に入ってみた。少し熱めのお湯につかると、じわじわと温泉成分が毛穴から体内に浸透していくようである。勢いよく湧出する100%の源泉をたっぷり味わうと、凝り固まった肩がすっかりほぐれ、素肌も柔らかくなっていくのが目に見えるようにわかる。

 この宿は、充実した食事もリピーターが絶えない理由のひとつ。地のものを使って炉端懐石を味わう。採れたての岩魚の塩焼き、旬の山菜、手作り五平餅・・・。一品ずつ丹念に作られた料理が次々と運ばれてきて、いつ終わるのかと思うくらいのボリュームがあり、心底おもてなしをされているように感じる。朝食では飲泉も可能な源泉で作る朝粥が、大変美味である。

 朝、鶯の鳴き声で目が覚めた。
 散歩がてら、地元で毎朝開催している朝市へ行ってみた。軒先に、採れたての山菜や野菜がお土産と共に並んでいる。水中で売っているトマトを一個買ってまるかじりする。お店のご主人がお客さんに、どこから来たの、と地図上にシールを貼らせていた。店主の趣味なのか?なぜか昭和のレコードが多々並んでおり、懐メロが朝市のBGMになっている。

 ぶらぶら散歩をして宿に戻り、朝風呂は露天へ。内湯とは違う泉質の露天風呂は、2種類の源泉を混合しており、混ざり具合によって濁り方が違うそうだ。これまであまり目にしたことのない緑褐色の濁り湯。朝日に照らされた温泉の水面は褐色というより、翡翠色にきらきらと輝いて本当に美しい。ほんのり硫黄臭のするお湯に、いつまでも浸かっていたくなるのだ。頭上ではさわさわと新緑が音を奏で、ときに鳥の囀りが聞こえる。初めて来るのにすごく懐かしい。本物の故郷に帰ってきた気持ちになるのは、私だけではないはずだ。

 翌日はお決まりの上高地をハイキングして、北アルプスの雪山をたっぷり望み、岐路に着いた。ここまでの泉質の高い温泉をほんの数日で後にするのはもったいなく、孫九郎の源泉で作ったという石鹸を購入。これで毎日洗顔したら、お肌つるつるになりますよ、という超美人な女将さんの言葉を信じ、毎日せっせと顔を洗っている。

 朝市のみならず、この福地温泉の集落全体が、50年くらい前から全く変わっていないようである。まるでタイムスリップしたかのような錯覚に陥るが、下手に観光地として何も飾っていないのがまた、旅人をほっとさせるのではないかと思う。四季折々の美しさと上質な100%かけ流しの源泉。それだけで十分な観光資源である。また必ず戻って来たいと誰をも思わせる、日本人の故郷かもしれない。

【福地温泉 元湯孫九郎】
住所: 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地1005
電話: 0578-89-2231
アクセス
 車の場合: 名古屋 → 東海北陸自動車道(高山IC下車) → R158(奥飛騨方面へ約60分)
 公共交通機関: 名古屋駅(JR特急ワイドビュー飛騨 2時間20分) → 高山駅(濃飛バス 60分) → 福地温泉

『内湯』
温泉名: 帝の湯4号泉
泉温(源泉): 81.8度 (PH値6.5)
泉質名: ナトリウム炭酸水素塩泉
色・味・匂: 無色透明、無臭

『露天風呂』
温泉名: 帝の湯2号泉と帝の湯5号泉の混合泉
泉温(源泉): 67.2度、36度の混合 (PH値6.9)
泉質名: 単純温泉
色・味・匂: 緑褐色にごり湯、炭酸味・鉄味・徴硫化水素臭
効能(入浴): 冷え症・神経痛・ 五十肩・うちみ・くじき・ 痔疾・疲労回復・ 慢性消化器(胃腸)病など
効能(飲泉): 糖尿病・痛風・肝臓病 慢性消化器(胃腸)病
料金: ¥17,850~(一泊二食、大人2名利用一人当り)

2012年05月22日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!