梅雨の晴れ間の新緑は美しい。
長雨が続いた上に土砂降りだった日の翌日は、梅雨の時期とは思えないほどからりとしていた。予定していた旅行の日に快晴だと、自分は晴れ女に違いないと信じて止まないのだ。今回行くべきところは、かねてからずっと気になっていた奥飛騨・新穂高にある野の花山荘。新穂高には、個性のある素晴らしい温泉旅館がたくさんあり、選択にいつも頭を悩ますが、外れたことはない。今回も、秘湯感、雰囲気、湯質、食事どれを見ても期待大の旅館である。新緑の中で浸かる露天風呂は、さぞかし気持ちいいだろう・・・。
あの有名な橋の下の混浴露天風呂を通り過ぎて少し山を登ると、野の花山荘がある。まるでもともとそこにずっと前からあったように、森の中にひっそりと佇んでいる。それだけ新緑の中に溶け込んでいるのだ。ここは、庄屋家屋を移築したもうひとつの温泉宿・槍見館の姉妹館として、5年前にオープンした。趣の全く違う宿を行き来して、宿泊客は双方の宿のお湯を楽しむことも可能だ。
チェックインをして広々としたロビーに入ると、山荘然たる高い天井に大きな薪ストーブ、ゆったりとしたソファが出迎えてくれる。ジャズが流れる静かなこの空間は、まさに大人の宿である。そしてこの山荘の売りは男女別の広い内湯・露天の他、混浴露天、2つの貸切野天風呂である。まず手始めに、男女に分かれた内湯・露天風呂に入りにいく。
週末だというのに、ほぼ貸し切り状態の内湯に入る。程なくして湯だってきたので、外の風にあたるためにぬるめの露天風呂に移動。頭上には青もみじ、目前には錫杖岳を眺めながら、ゆったりとお湯につかる贅沢。掛け流しの源泉は、柔らかい透明色で、いつまでも浸かっていられる程心地よい。
とはいえ空腹感は否めないため、そそくさと上がって夕食をとりにダイニングへ行った。ここのもうひとつの売りは、奥飛騨初のオープンキッチンで食事ができるダイニングスタイルだ。広々としたカウンター席に座り、オープンキッチンで調理される食事を眺めながらワイングラスを傾けることができる、ここはやはり大人の宿なのだ。ウイットの効いた冗談でキッチンを取り仕切るのは、池乃めだかに似たサービスマン。洋懐石とでも呼んだらいいのだろうか、メニューは湯葉のチーズ焼き、河ふぐのフライ、岩魚の炭火焼き、アボカドのミートソース蒸しなど、ボリューム満点の料理が次々と小洒落た盛りつけで出てきた。クライマックスはやっぱり飛騨牛の炭火焼きステーキ、そしてお釜で炊いたほかほかごはんで〆る。デザートは薪ストーブのあるロビーに移動、満腹になったお腹をさすりながらゆったりしたソファーでくつろぎ、奥飛騨の夜は更けていった。
翌朝の朝風呂は貸し切り露天風呂へ。広い敷地の森の中を抜けると、朝露に濡れたカラフルで小さい野の花が顔をちらちらとのぞかせる。貸し切りとはいえ一人では広すぎる野天風呂に浸かる。静かな森の中で聞こえるのは、小鳥のさえずりと源泉の湧き出る音だけ。どこまでも続く美しい新緑を抱きながら朝から温泉に浸かるなんて、なんとも贅沢すぎる。
湯上がり後は、昨夜と同様、オープンキッチンでできたてのふわふわオムレツをメインに、朝食をいただいた。
源泉と大自然の癒し、オープンキッチンでの出来立てのお料理。他には何もないが、シンプルを極めた大人の宿。今回は初夏の新緑を愛でるのが目的で訪問したが、期待を全く裏切られなかった。新緑だけでなく、どの季節も違った趣が楽しめるに違いない。リピーターが多いのもうなずける究極の温泉宿であった。
【新穂高温泉 野の花山荘】
住所: 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂707
電話: 0578-89-0030
アクセス
中部縦貫道 → 高山ICより奥飛騨方面へ約60分
泉温(源泉): 81.8度(PH値:6.9)
泉質名(源泉): 低張性中性高温泉[単純温泉](野の花山荘1号泉[自家源泉])
色・味・匂: 無色透明・無味微硫黄臭
効能: 神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、間接のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進
料金: \13,500 又は\15,000(一泊二食/週末同料金)
2015年07月08日