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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

野生の混浴 後楽館

野生の混浴 後楽館

 今や国内より海外の方が人気ではなかろうか。
 信州にある地獄谷温泉に野生のニホンザルが入浴する野猿公苑がある。数年前、雪が舞う中ここの天然温泉に気持ちよさげに浸かるニホンザルが、堂々と海外の雑誌の表紙を飾り、あっという間にブレークした地域である。それ以来、人間くさい仕草で温泉に浸かるニホンザルを一目見ようと、欧米豪州からの外国人観光客が、はるばる遠くから訪れるようになった。そのおかげでこの近隣で営業する温泉宿は、冬の客層ターゲットとして外国人にも目を向けるようになったのである。「サルに足を向けて寝られませんよ」と、宿主たちは本気で口を揃えて言う。

 野猿公苑に足を運ぶ外国人たちの中には、サルと混浴ができると期待する人もいるらしいが、当然公苑内の温泉は、とてもヒトが入れるほど清潔ではない。なんせインドのガンジス川並みに、人ならぬサルの生活・生態そのものが、この露天風呂の中で全て行われているのだから。ところが、この公園の近くに、おそらく世界で唯一、野生のニホンザルと一緒に混浴ができる秘湯の宿がある。渋・湯田中温泉と共に並ぶ上林(かんばやし)温泉に佇む後楽館である。

 桜吹雪の舞うGW明けの信州。上林温泉の麓にある駐車場に車を停め、山道を10分ほど歩くと、プシューっと突然すごい勢いで噴出す天然記念物の噴泉が見えれば、すぐそこに宿がある。到着後、肉厚の山菜がたっぷりのった温かい蕎麦をいただきながら、オーナー夫妻のお話を聞いた。

 開業は1864年、約150年ほど前から宿を営む後楽館。昔は湯治用の宿だった。現在は7代目のご主人が夫婦で切り盛りしている。鄙びた10部屋の小さな宿だが、世界で唯一猿と混浴できる宿として海外のメディアや雑誌に多く取り上げられたおかげで、日本人のみならず外国人が多く宿泊している。近代文明―ネットもwifiも携帯も、ほぼ通じない。回りには何もない秘境で、連泊をする宿泊客も少なくない。特に冬は、どこの国に来てしまったのかと思うほど多国籍な客が10部屋を満たすのだという。夜になれば、ビールやお酒を持ち込んで、宿泊客と大宴会になることもあるそうだ。

 宿内には、混浴(男女・猿)露天が1箇所、女性用露天が1箇所、内湯が男女各1箇所、家族風呂が2箇所。「延命の湯」という名がついており、いかにも身体によさ気だ。湯治湯としても使われていたし、どう身体にいいんですか?という問いかけに、「よくわからんけど、温泉に浸かればそりゃ身体も温まって疲れもとれるし、いいんじゃないの」と、とってもアバウトで気さくなご主人。そんな源泉かけ流しのお湯に、早速浸からせてもらった。

 露天に案内してもらうと、さっそくサルの親子が蚤取りをしている。ここまで近いとぎょっとする。
 お風呂の周りはすのこで覆われているが、対面に位置する地獄谷野猿公苑に来るお客から丸見え。腰を低くして湯船に入る。70度ほどの源泉はちょうどよい温度に加水されており、まだ肌寒い空気の中で入る露天はとても心地よかった。湯船に無数に浮かぶ湯の花が、源泉の効能の良さを感じさせる。ぬるめのお湯につかってぼーっと空を眺めながら、サルが入ってくるのを待っていたが、ザンネンながらついに混浴はできなかった。

 帰りに、100年前からのレシピ通りに作るというここの名物であるちまきをいただいた。餅米を笹の葉で包み、高温の源泉に鍋を入れて蒸し上げる。これをお手製のきな粉でまぶして食べるのだ。うぐいす色で塩味の利いた甘いきな粉をつけて食べると、ふわっとした笹の葉の香りとともに素朴な味わいが口いっぱいに広がる。「今度は冬に泊まりに来てくださいよ、冬は一面雪で、ホントにいいから」と帰り際、女将さんに言われたのを思い出しながら、次こそはサルと混浴するぞ!と誓うのであった。

【地獄谷温泉 後楽館】
住所: 長野県下高井郡山ノ内町平穏6818
電話: 0269-33-4376
アクセス
 車の場合: 上信越自動車道 信州中野ICから渋・湯田中方面へ13km 渋温泉駐車場より徒歩10分
 公共交通機関: 名古屋駅 → JRワイドビューしなの(3時間) → 長野駅 → 長野電鉄湯田中駅 → 上林温泉行きバス終点下車、徒歩30分
泉温(源泉): 60~90度(PH値:7.2)
泉質名: 弱アルカリ性石膏泉苦味泉
色・味・匂: 無色透明・硫化水素臭
効能(入浴): 神経痛、リウマチ性疾患、慢性膀胱炎、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、慢性皮膚病、虚弱自動、病後復期、疲労回復、健康増進、動脈硬化症
料金: 500円(日帰り入浴)、12000円~(一泊二食)

2013年05月24日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!

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