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桃園県 独裁者、“観光大使”に

2009年08月17日

 売店で思わず買ってしまった。蒋経国・元台湾総統の人形入り栓抜き。取っ手の部分に卵形の空間があり、中で三センチ足らずの元総統が泳いでいる。派手な赤シャツ、黄色と白のシマシマ浮袋。シンボルマークの黒縁眼鏡がおちゃめに見える。

 ここは、台湾北部・桃園県の後慈湖。父親蒋介石が総統だった一九六〇年代、悲願だった大陸反攻に打って出る際、臨時の指揮拠点になるはずだった。

 湖一帯は軍事管制区として長らく立ち入り禁止だったが、文化・観光地区として一日から一般開放された。売店も当時は軍事事務所だったが、全体が蒋家関連の資料館に模様替えされた。

 父は歴史に名を刻む独裁者。息子も台湾民主化への道筋を付けたとはいえ、権力を一手に握っていた。売店にはそんな親子の関連グッズが並ぶ。あまりにかわいげなイメージに違和感も感じるが、元総統をグッと握りしめて地場産台湾ビールの栓を抜くのも悪くはない。 (栗田秀之)