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北京 終わらぬ事件に嘆き

2009年09月11日

 1989年、王楠君は日本語の勉強とカメラが好きな北京の高校生だった。将来は日本に留学し、報道カメラマンを夢見ていた。

 天安門事件が起きた6月3日深夜、「今夜は外に出てはだめ」と言う母親に「真実を記録し、正義を広めるんだ」と言い、カメラを手にヘルメット姿で出かけた。2時間後、天安門広場近くで射殺される。いまわの際で力を振り絞り、Vサインを作ったという。

 先月、王君宅で遺品を見せてもらった。ヘルメットに銃弾の跡、「中国魂」と書かれた鉢巻き。「王君、いつも珍しい切手をありがとう」。文通相手だった大分県の少女の手紙も残されていた。

 事件は今も中国ではタブーだ。母親は今月3日夜、王君の死亡現場で慰霊をしようとしたが、自宅を十数人の警官に囲まれ阻止された。現場でも数十人の警官が待機していた。

 「こんな社会はいつまでも許されるはずがない」。母親が嘆く。それは王君の言葉に聞こえた。 (平岩勇司)