2010年03月04日
英各紙は最新の映画評で「東京物語」に最高の5つ星を並べた。英国映画協会が2月末まで開く小津安二郎特集。半世紀を超えて新たな観客を獲得し、テムズ川沿いの映画館は満席だ。
銀幕に、老け役の笠智衆がひょっこり現れる。隣席の紳士が「彼がリューだ」とささやく。連れの女性がうなずく。ほほ笑ましい場面には笑いが起き、怖いまでに純真な原節子のせりふに涙ぐむ人がいた。
映画史に輝く小津さんは若き日、現在の三重県松阪市で1年だけ代用教員を務めた。たまたま当時の教え子だった祖父は「授業で映画の話をしたり、これからは英語が大事だとローマ字を教えてくれた変わった先生」と後々まで懐かしんだ。
たった1年の印象を子どもたちの心に焼き付けた小津さん。身につまされるような家族劇の名作を残し、時代を超えて海外の観客の心もつかんで離さない。
(松井学)