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ローマ 再び立ちあがる彫像

2010年07月15日

 ローマの街中の大理石像には「もの言う」彫像というのが幾つかある。1番有名な像が最近修復を終えた。「もの言う」と言ってももちろん口を利くわけではない。闇夜に乗じて匿名氏が韻文をしたためた紙を像に張り付けたり首にかけたりして、翌朝彫像が俚言(りげん)で「語る」辛辣(しんらつ)な時評に市民たちが溜飲(りゅういん)を下げるというわけだ。

 ローマっ子なら知らないものはないパスクイーノと呼ばれるこの手足のもげた大理石像は1501年、ナボナ広場の近くから発見された。ギリシャのブロンズ像からコピーされたローマ時代の彫像だが、広場に隣接するブラスキ宮の裏手に設置され、16世紀から今日まで「語り」続けている。

 時の権力者たちの不徳や横暴を揶揄(やゆ)嘲弄(ちょうろう)する庶民的風習は、過去の法王や独裁者に対しても容赦はなかった。メディアを占有する新たな「独裁者」が登場し、性的虐待で世間を騒がす聖職者たちの横行する昨今、パスクイーノの出番が待たれる。 (佐藤康夫)