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クラクフ 悲劇の夫妻を悼んで

2010年08月05日

 政府専用機の事故で亡くなったポーランドのカチンスキ大統領夫妻の亡きがらは、南部の古都クラクフにあるバベル城の大聖堂に葬られた。薄暗い地下室に据えられた真新しい大理石の棺(ひつぎ)。ふたに十字架、側面には夫妻の名前が記された。

 国葬後の一般公開で、ひざまずいて弔意を示す男性に続いて棺に手を乗せてみると、寄り添って眠りについた夫妻の姿が思い浮かんだ。マリア夫人は大統領にも、反対する政治家にも、もの言う人だった。カトリック信仰の厚い国で、妊娠中絶の権利を主張し、激しい非難を浴びたこともあったが、その賢明さで国民に人気があった。

 事故直後の弔問は待ち時間が10時間以上の列が途切れなかった。「2人のことが本当にうらやましい。悲劇の中でも、離れ離れにならなかったのは幸せなことだわ」。そう話してくれた女性の言葉に救われたような気になった。 (弓削雅人)