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バンコク 響く銃声決死の助命

2010年06月05日

 深夜のバンコク市街で、2人のタイ人男性が私のスーツケースとカメラバッグを持って走りだした。その瞬間、頭に浮かんだのは「盗まれる!」だった。

 タイの騒乱取材のため深夜に到着したバンコク。目的地近くで銃撃戦があり軍が道路を封鎖。「悪いけど、これ以上は行けない」とタクシー運転手は首を振った。

 車を降り、爆発音を聞きながら思案していると突然、すぐ近くでパン、パン、パンと銃声が響いた。周囲の人たちが逃げ惑う。さっと私の荷物を持った男性たちは走りながら「ついて来い」と叫んだ。銃声が続く中、「伏せろ」と物陰に私の背中と荷物を押し込んだ。物取りと思い込んだ自分を心から恥じた。

 最終的に、1人の男性がバイクで目的地まで送ってくれた。ガラスの破片が散乱し、武装兵以外だれもいない真っ暗な道を突っ走って。見ず知らずの外国人のために、自らの身を危険にさらして。

 (吉枝道生)