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束草 問わず語りの日本語

2011年04月28日

 韓国東海岸にある束草(ソクチョ)で、70代の男性から昔話を聞いているときだった。「えーっと…」。話の継ぎ目に突然、日本語が現れた。別の男性は、インタビューの最後に年齢を尋ねたら「はちじゅうなな」と答えた。

 朝鮮戦争の際、北朝鮮から韓国に逃れてきた人。南北分断によって故郷を失ったとの意味で「失郷民」とも呼ばれる。束草には、北朝鮮を古里とする人たちが大勢集まって暮らす。一世のハラボジ(おじいさん)の数は減っているものの、子孫も合わせると、住民の約3分の2が北朝鮮からの失郷民とされる地区もある。

 ハラボジたちの昔話には、多くの日本人が登場する。「小学校のタムラ校長は刀をいつも持っていて刀で窓を開け閉めしていた」と身ぶりを交えて楽しげに語る人がいた。太平洋戦争を「大東亜戦争」と言い、北朝鮮の故郷の学校に立っていた日本人司令官の銅像の話を懐かしそうにする人も。訪ねて来た相手が日本人だったことも、記憶の鮮明な再生に拍車をかけたのかもしれない。

 ハラボジは日本による植民地支配下の朝鮮半島で、日本語教育を受けた世代だ。朝鮮戦争による「心の傷」を聞こうとして、浮かび上がった日本の影。日本批判はなかったけれど、本音はどうかまで分からなかった。 (築山英司)

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