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ソウル 失郷民スターの思い

2011年05月06日

 日曜の昼、ついつい見てしまうテレビ番組がある。韓国KBSの「全国歌自慢」だ。

 名物司会者の宋海(ソンヘ)さん(83)が「皆さん、こんにちは」と会場に呼び掛けるオープニング。全国各地を回り一般公募の出場者が歌を競う風景は、NHK「のど自慢」と同じだが、宋さんと出場者のやりとりが面白い。ハルモニ(おばあさん)からアガシ(娘)まで、小太りの好々爺(や)の宋さんを「オッパ(お兄さん)」と呼ぶ。時に宋さんにキスし観客が沸く。泥くさくもあるが、韓国の庶民のノリの良い陽気さがあふれる。

 国民的な人気者の宋さんだが、故郷は北朝鮮にある。約60年前に朝鮮戦争の混乱で父母兄妹と離れ単身で韓国に渡った。南北分断で故郷を失った「失郷民」であることは、国民にも知られている。

 宋さんの故郷・北朝鮮への思いを聞く機会があった。「生き別れたすべての人が故郷に一度は戻りたいと願うでしょ」と望郷の念を隠さない。しかし、北朝鮮の政権には強硬だった。「昨年の哨戒艦沈没や延坪島(ヨンピョンド)砲撃は度が過ぎている。過去にわれわれは援助したがもうできない。いまは北朝鮮が主義や思想を変えなければならない時だ」。番組では見たことがない毅然(きぜん)とした表情。韓国の庶民の思いを代弁した発言に、南北の緊張はしばらく続くと思った。 (築山英司)