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ワシントン 出迎えは偶然の再会

2011年05月02日

 成田発ワシントン行き米ユナイテッド航空。二度目の米国赴任のため乗り込んだ機内で、彼と隣り合わせになった。

 ワシントンまでは12時間を超える長旅になる。気持ちよく過ごそうと思い、あいさつを交わし合った。

 「東京新聞ですか。4年くらい前に、一緒にスシとビールを」。その声と表情で記憶が突然、よみがえった。

 帰任を間際に控えていたあの日、ワシントン市内のすし店で偶然隣り合わせになったのがベルギー人の彼だ。昭和初期の日本の金融恐慌をテーマに、米連邦議会図書館で研究の日々を送っているという。変わり種ぶりに感じ入り、杯を交わすうち意気投合。すしの後はベルギービール店に場を移し、夜更けまで鯨飲した。

 関係は、なんとなくそれっきりになったが、好ましい思い出の一つとして記憶の奥底に鮮烈に刻まれている。

 「こんな偶然はあるんだね。地球は狭いねえ」。しみじみとつぶやく彼の声に深く、うなずいた。3年半近くを隔てた同じ日に、300席もある大型旅客機で隣り合わせになる。こんな瞬間、人生は楽しさを増す。

 今回、彼が日本を訪ねたのは研究生活の場を東京の大学に移すためだった。面接は首尾よく終わり、秋には日本に渡るという。その時はぼくが、日本のビールで送り出してやろう。 (久留信一)