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ニューヨーク 勇気も届ける配達人

2011年05月13日

 支局に日本からの新聞を届けてくれるアンワル・サリワティさん(57)は、在米約二十年のインドネシア人だ。人懐こい笑顔で、顔を合わせると「元気か」と声を掛けてくれる。

 インドネシアは七年前、スマトラ沖地震で壊滅的な被害を受けた。当時の勤務地だったフィリピン・マニラから取材で向かったアチェ州バンダアチェの現場は、海岸から約三キロの建物や人がすべて流されていた。

 連絡が取れない家族を尋ね歩く人も、避難所で不安そうに身を寄せ合うお年寄りも、果てしないがれきに埋もれてしまった街も、アチェで見たあの光景が、今度は日本で起きた。

 サリワティさんは七年前、大災害を知ってインドネシアに何度も電話したが、まったくつながらなかった。すべてがのみ込まれた母国のテレビ映像を、立ち尽くして見詰めるしかなかったという。友人はみんな無事だったが、あの地震と津波ではアチェだけでも約十六万人が亡くなった。

 そんなサリワティさんが届けてくれる新聞が、被災地に降る雪や物資の不足、必死に生きる人の姿を毎日、伝えている。「七年前のあなたと同じ気持ちだ」と話したら「国を離れていても祈りは通じる。だから元気を出せ」。ふとしたやりとりが、人に勇気を与えてくれる。 (青柳知敏)