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ミドルタウン 米原発事故経験者は

2011年05月27日

 赤茶けた小さな新聞の切り抜きの束は、すべて地元紙に載った乳幼児の死亡記事だった。米東部ペンシルベニア州ミドルタウンで、スリーマイル島原発事故が起きた1979年から83年まで計150枚。多いか少ないかは判断しかねるが、原発近くに住み、当時世界最悪といわれた事故を経験したヘレン・ホッカーさん(84)にとっては無視できない数だ。

 その後も近所の親類や知人が次々に甲状腺がんなどで亡くなり、86年には当時40歳だった最愛の長女を胸腺がんで失った。

 「とても尋常とは思えない」と、州都ハリスバーグや首都ワシントンでたびたび危険を訴えた。行政側の対応はなしのつぶてだったが、原子力規制委員会(NRC)のあるメンバーがホッカーさんの同僚に「運動を絶対にやめるな。事故はまた起こるから」と、ささやいたのが忘れられない。

 その通り86年にはチェルノブイリ事故が起き、今は福島第1原発の悲惨な事故の映像が毎日テレビから流れてくる。だが、のどかな街で福島とスリーマイル島の悪夢を重ね合わせる人は少ない。

 「近所には、いまでも私たちが訴えることを信じようとしない人がいる。特に若い人たちはね」とヘレンさん。

 事故を経験していないからだろうが、経験してからでは遅い。 (岩田仲弘)