【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. アジア
  5. プノンペン 教育で歴史の真実を

プノンペン 教育で歴史の真実を

2011年05月26日

 カンボジアの国民大虐殺に関与した旧ポル・ポト政権元幹部を裁くプノンペン郊外の特別法廷で、裁判を傍聴しに来ていた大学生の集団の中に、ちょっと大人びた青年がいた。チェイという名でコンポントム州出身の25歳。既に警察官として働いているという。

 3カ月前から大学に籍を置き、法律を学び始めた。働きながら学費を自分で払い土、日に授業を受けている。「正しいことをするには常に法を考える必要がある」と思い、大学に行くことにした。

 法廷で傍聴ができることは、ラジオで知った。教育のため大学でも傍聴希望者を募っていたため応募。ポル・ポト時代に、伯父や伯母ら大勢が殺されたことを父から聞かされていた。

 チェイさんはこの時代のことを考えると混乱し「自分の気持ちをうまく表現できなくなる」と言う。だから、「法廷がどう元幹部を裁き、正しさを実現するかを見たい」と話した。

 特別法廷の重要な意義が実は教育面にあると思う。これまでの国際法廷と異なり、大虐殺があった当事国に設置され、国内法が裁きに適用され、当事国の若者が傍聴に訪れている。死者200万人ともいわれ、教育が否定された“暗黒の時代”。繰り返さないために不可欠なのは歴史の真実に向き合う教育に違いない。 (古田秀陽)