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タスカルーサ 思い出は「助かるさ」

2011年06月21日

 米南部を襲った竜巻と暴風雨で最大の被害を受けたアラバマ州タスカルーサ。猛烈な風に吹き飛ばされた街は不気味なほど静かで、住民が黙ってがれきを掘り返していた。

 突然、女性に声を掛けられた。「あれが私の家です。そのカメラで写真を撮って、電子メールで送ってもらえませんか」。動転していたのだろうか、ときどき話のつじつまが合わない。「少なくともあそこに私の家があった。それを思い出にしたいんです」

 テレビは約1カ月前まで、日本の被災地の様子を連日放送していた。住民は「竜巻が去って外に出たらすべてが消えていた。日本の津波と同じだ」と話したが、竜巻は局地的に街を壊し、被害が一定エリアに集中している。道路一本隔てた向こうの建物は、ほとんど無傷で残っている。

 「写真を…」と話していた女性の家も、あと数10メートルで被害を逃れた。津波でも、あと1分、あと10メートルで救われた命がどれほどあっただろう。災害現場ではいつも、破壊と日常の紙一重の“境界線”を嫌というほど見せつけられる。

 タスカルーサは日本語で「助かるさ」にも聞こえる街。生活を探してがれきを掘る被災者に、そう話し掛けてみた。「われわれも日本も助かればいい」。顔を上げて、少しだけほほ笑んでくれた。 (青柳知敏)