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ニューヨーク 教授の静かなエール

2011年07月09日

 小柄な体に、眼鏡からのぞいた好奇心いっぱいの瞳。8月末に日本へ移住し、日本国籍を取得する考えを公表している米コロンビア大のドナルド・キーン名誉教授に会った。ニューヨーク市内で行われた「最終講演」の取材だ。

 三島由紀夫、安部公房、谷崎潤一郎-。交流のあった名だたる文筆家の名が、次々と出てきた。

 永井荷風の家を訪れた時のことを「荷風の日本語はすごくきれいだった。あんなふうに話せるようになれたら死んでもいいとさえ思った」と顔を紅潮させながら語った。

 「18、9歳から、日本のことを考えない日は一日もない」とも。まるで恋人の話をしているようだ。

 でも、柔和な表情が消える場面が。東日本大震災の被害について聞かれた時だ。そもそも、日本への永住を決めたきっかけは、日本人を励ましたかったからだという。「私みたいなものは、移住するということでしか日本に恩返しできない。感謝の気持ちを伝えたかった」と謙遜した。

 震災後、世界中から多くの支援物資が届いている。その中で「日本人になる」と言った人は、キーン教授が初めてだろう。

 静かにそっと寄り添う-。こんなエールもあるのか、と教えてもらった。 (長田弘己)