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バリ 熱帯夜なき熱帯の島

2011年08月30日

 「熱帯なのに、ここには熱帯夜がないんですよ」。国際会議の取材に訪れたインドネシア・バリ島で現地に住む韓国人が教えてくれた。海に囲まれたせいなのか、確かに夜になると涼しいそよ風が肌をなぜた。

 会議には北朝鮮政府の代表団が参加した。貴重な肉声や映像を撮ろうと移動先を追った。夜10時近くまで高級リゾートホテルの物陰で彼らの到着を待ち構えた。南国のリゾートまで来てそのように働く寂しさを若干感じたが、心地よい夜風が救いだった。

 北朝鮮と韓国は核問題を扱う高官同士が2年半ぶりに会談し、南北の対決局面に変化が生まれた。南北高官は並んで談笑。北朝鮮代表団の1人は会場隅で一服しつつ「ここまで来て海水浴する時間もないよ」と私の心を代弁するように苦笑いした。彼らのラフな言動は政治的演出の産物かもしれないが、時間がゆったり流れる島の効用も1パーセントはあったかもしれない。

 ただ南国だけに涼しさを過度にありがたがるようで、行きのインドネシアの航空機内はクーラーが効きすぎ毛布2枚を体に巻き付けた。会議場も半袖だと寒く喉が痛くなった。普段の勤務地の韓国ソウルに戻ると、夜は熱帯のスコールのような豪雨が連日降り、ずぶぬれになって悩まされている。(辻渕智之)