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ベルリン 涙が詰まったカバン

2011年10月18日

 ベルリン中心部のフリードリヒ通り駅前にあり、ドイツ分断時代の東西市民がつかの間の再会後に別れを惜しんだことから「涙の宮殿」と呼ばれた検問所が、博物館としてオープンした。

 検問所は、ベルリンの壁ができた翌年1962年に設けられ、89年の壁崩壊後は、ディスコやイベント会場にも使われた。無言で威圧する東独係官が待っていた薄暗いビザ検査室も、明るい展示ブースに再生された。

 当時、親類を訪ねる東西の市民はここでビザと荷物をチェックされた。物資が豊富な西で買ったコーヒーや果物などの土産がたくさん詰まったカバンは、申告リストと中身が一つでも違えば大騒ぎ。

 だから、展示の重要な小道具もカバン。この検問所で別れの涙を流した人の歴史に傍らで寄り添ったカバンが訪れる人に語りかけてくる演出だ。

 当時、東側に住んでいた3人のおばたちと行き来したウィップリンガーさん(48)は「重そうにカバンを抱えて階段を歩くお年寄りたちの姿を今でも鮮明に思い出す」と目を潤ませた。

 遠足の女子中学生は「歴史の授業で学んだけれど、実際こんな場所に来るのは初めて」と神妙だ。展示のカバンに入り切らないほどの当時の市民の悲哀を感じ取ってくれただろうか。忘れないでほしい。 (弓削雅人)