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清道 赤毛闘牛千年の伝統

2011年10月22日

 20分間近く、角や頭を激しく突き合わせていた牛の一方が突然、相手に尻を向けて逃げ出した。重さ1トン近い巨体にみなぎっていた力がとたんに抜けて戦意を失う変わりように、妙味を覚えた。

 牛と牛を闘わせる闘牛というものを初めて見た。韓国南東部の山あいの農村、清道(チョンド)で闘牛が公営ギャンブル化された初日だった。毎春、数日間の闘牛祭りが開かれてきた土地だが、今後は年間を通して毎週末に実施する。開閉式ドーム付きの闘牛場も新設された。

 闘うのは黒毛和牛ならぬ赤毛韓牛。聞けば、牛ごとに得意技が異なるという。角掛けや頭突きの角度が違えば、押し出しが十八番の牛、相手の首や横腹を狙う牛とさまざま。牛は自らの得意技を何度も繰り出しながら相手の力を見極めている、と教えられた。そして「かなわない」と悟った瞬間、余力はあるように見えても、あっさり退散するのだ。

 そう言われて見ると、会場の観客らは、牛の頭のかしげ方や目つき、息遣いなど微妙なしぐさや変化にも一喜一憂し、歓声やため息を上げていた。当地の闘牛は千年近い伝統がある。闘牛の牛は、わが子のように大切に育て、死ねば墓を作る人もいるという。牛に劣らず人の鼻息も荒かったが、牛の表情を読み取り、楽しんできた「人と牛の近さ」に感心した。 (辻渕智之)