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湖州 略奪の標的はスマホ

2011年11月17日

 地元政府庁舎を取り囲み、公安車両を焼き払った上、一般車両を次から次へと横転させる-。10月末、浙江省湖州市で発生した農民工(出稼ぎ農民)の暴動で、参加者の一部は政府や公安当局への抗議行動に加え、商店での略奪にも及んだ。

 税金徴収員による零細業者への暴行がきっかけで、日ごろの低賃金や困窮した暮らしへの不満が爆発した。

 抗議行動がエスカレートする中で、一部が市場で食品を強奪し始めた。当局側は、銀行や貴金属店の前に武装した警察官を立たせて警戒していた。だが、暴徒が向かった先は、携帯電話の販売店だった。

 湖州で働く農民工の月収は、2000元(約2万4000円)ほど。中国の若者の間ではいま、価格がその倍近くする多機能携帯電話(スマートフォン)が人気だが、農民工にとっては高根の花。抗議行動に参加していた若い農民工たちが、混乱に乗じて、販売店で略奪に及んだのだ。

 取材からの帰り際、汁そば店で食事をしていたら、そんな1人が真新しいスマートフォンを見せてきた。画面には、燃え上がる公安車両から転がり出る警察官を撮影した動画。暴動を起こした高揚感からか、憧れていたスマートフォンを手にした喜びからか、その誇らしげな表情が、目に焼きついた。(今村太郎)