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ドレスデン 日独忘れがたい悲劇

2012年01月19日

 ドイツ東部ドレスデンにある連邦軍の軍事歴史博物館を訪ねた。古典的で重厚な武器庫の威容は米国の建築家リベスキンド氏によって斬新な外観に大改装された。昨年10月半ばの開館から1カ月で10万人以上が訪れた。

 5階建て延べ1万9000平方メートルに、中世から現在までドイツの軍事史を概観できる約1万点の展示品が並ぶ。

 目を引いたのは、高さ14メートルのV2ロケット。第2次大戦末期、英国に向けて1000発以上も発射された。展示は周囲を真っ暗にして閃光(せんこう)を当て、自分の残像が壁や床に焼き付いたように見える演出。兵器のとてつもない威力を想像させた。

 目がくらんだまま立っていると、隣にいた教師クラウディアさん(44)に「ヒロシマの原爆のことを考えているのですか」と聞かれハッとした。ここは軍事マニアのテーマパークではなく、戦争が歴史上、何をもたらしたのかを見る者に問い、軍事力が未来に果たす役割を共に考える場所という構想なのだ。

 ドレスデンは第2次大戦中、英米軍の無差別爆撃で街の8割以上が破壊され、多くの命が奪われた。広島の原爆被害と規模は違っても、忘れがたい悪夢であることに変わりはない。博物館の最上階からドレスデン市街を見るクラウディアさんの目に、未来の悲劇が映っていないよう願った。 (弓削雅人)