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フレデリック 古家具に暮らし思う

2012年01月18日

 「1940年代 テレホンベンチ」。米東部メリーランド州の小都市フレデリックの古家具店で白いベンチを見つけ、その商品タグに心ひかれた。

 ベンチは木製で、よく公園などで見かけるあのベンチと同じ形だが、横幅は2人でいっぱいの小ぶりなサイズだ。向かって左側のサイドには、座台の上に脚付きの電話台が取り付けられているので、実際には1人しか座れない。

 「私の夫が白いペンキを塗り直して補修したんですよ」。店を守る老婦人の説明を聞いて触ってみると、ぐらつくこともなく、しっかりしている。年代は経ているが、現役として十分通用する頼もしさがある。

 70年前、米国の田舎町に住む娘さんがこのベンチに腰を掛け、ボーイフレンドと長話をしたのだろうか。あるいは、戦場から届いた夫の無事な声を聞いたのかもしれない。想像を広げるうちに楽しくなり、思わず購入してしまった。

 店内にはベンチのほかに化粧台や寝室の小さなソファ、キッチンテーブルなどが置かれていた。全てご主人が古い家具を組み立て直し、新たな命を吹き込んだものだ。価格も決して高くはない。

 自宅に持ち帰ったベンチに腰掛けてお茶を飲み、米国の市井の人々が刻んだ生活の断片に思いをはせている。 (久留信一)