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ソウル 脱北者 食は恋しいが

2012年01月20日

 北朝鮮を脱出し、ソウルに住む女性の言葉に耳を疑った。「韓国よりも北朝鮮の食べ物がおいしい」。彼女と食事すると、箸が進まない。楽しくないのかと案じたが、意外な理由を聞き、やはり信じ難かった。

 韓国の魅力の一つは「食」だと思うし、食糧難が伝えられる北朝鮮と比べれば、食堂のメニューも店頭の食材も豊富なはずだ。でも彼女は「北朝鮮のコチュジャン(トウガラシみそ)はイチゴのような風味がある。ハクサイも、ずっとみずみずしい」と続ける。

 別の脱北者は「北朝鮮は化学肥料を作る余裕がないから、有機農法で生産していると国内で宣伝している」と話す。化学肥料を使わないから、むしろおいしいのか。とにかく、彼女が北朝鮮に残る家族と会えないだけでなく、食事でも故郷恋しさを募らせているとは思わなかった。

 ところで、金正日(キムジョンイル)総書記の死亡時刻は12月17日朝と発表された。その一方、同日朝の労働新聞の1面には、会いたくても会えない金総書記を恋しく思い慕う住民の心情を描写した記事が掲載されている。脱北者の間では、実はこの記事が死去発表を間接的に予告し、死去は前日だったとの推測がある。

 食事が進まぬ彼女に、そんな恋しさはあるのか尋ねた。「まったく」。即答が返ってきた。 (辻渕智之)

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