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ソウル 鍋のなぞ腹に落ちる

2012年01月31日

 もったいないなあ。韓国人と鍋を囲むと、たまに感じる。スープはよく飲むが、具は結構残してしまうのだ。魚介類をトウガラシ粉で煮た真っ赤な海鮮鍋は特にそうで、骨を取るのが面倒だからかと思っていた。

 最近、その謎が解けた。日本料理の板前がソウルに来て講義するのを聞く機会に恵まれたときのことだ。

 彼いわく、韓国の気候は乾燥して冬の寒さが厳しい。だから水分を多くとり体を温めるため、熱い鍋物やスープ料理が多い。しかも長時間ぐつぐつ煮炊きするので、具材から味が染み出て汁はおいしくなる。半面、具材の味は失われる。

 一方で日本料理は素材の味をそのまま味わう。煮炊きは短くさっとし、あるいは魚の刺し身や野菜も生に近い状態で食べる。

 風土と食の結び付きも知り、腹に落ちた。味を汁に出し切った具材は役目を果たした。それで韓国人は食べないわけだ。

 韓国ではのり巻きが町中の食堂でよく売られているが、のりにごま油が塗ってある。風味に加え、乾燥を防ぐためなのだろう。

 飲食店でマグロやサケの刺し身が凍ったまま出てくることもある。解凍が不十分なのではなく、やはり乾燥対策の意味があるのだろうか。知人の韓国人は、ちょっと凍ったトロの方がおいしく感じるそうだ。(辻渕智之)