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北京 反体制作家帰る日は

2012年02月29日

 「私が米国に渡ったことを確認してから、記事にしてください」。昨年11月、北京の飲食店。中国の反体制作家、余傑さん(38)は、公安当局者から受けたリンチの詳細を静かに語り始めた。

 2010年12月、共産党の独裁廃止を求めた「08憲章」の主要起草者、劉暁波氏へのノーベル平和賞授賞式前日。北京郊外に連れ出され、目隠し、全裸で殴られた。意識を失った。

 翌日、病院のベッドで目が覚めた。体には点滴の管が何本もつながれていた。「自分で転んでけがをしたことにしろ。さもなくば点滴を抜く。死ぬぞ」と脅された。

 その年、温家宝首相が庶民に寄り添う姿勢をパフォーマンスと批判した「中国影帝(中国一の名優)温家宝」を香港で出版。劉暁波氏の伝記も書き上げていたが「出版すれば、即逮捕だ」とも。

 余さんは今年1月、米国に渡った。「自由に言論活動をしたい」という本人の希望と、余さんを国内から追い出したいという中国当局の思惑が一致した。

 「国内にとどまれば殺されるかもしれない。でも、両親を中国に残すのも心配だ」。海外で大きく伝えられた余さんの米国亡命のニュースを見て、余さんの苦悩の表情が目に浮かんだ。余さんが再び祖国の地を踏むのは、いつの日か。(朝田憲祐)