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筏橋 食と抵抗の歴史が源

2012年03月19日

 韓国の飲食店に冬限定の貝がある。名前はコマッ。日本では灰貝の名で、九州では採れるようだ。5センチほどの2枚貝で肉厚な身は赤黒い。まさに血の色で一瞬ひるむが、歯応えがあってうまい。

 産地は、たいてい韓国南西部の筏橋(ポルギョ)だ。「筏橋では力自慢をするな」との言葉もあると聞いた。筏橋の男性は力持ちで、けんかに強い。理由はコマッを食べているからだとも。冬が去る前にと海辺の町に足を運んだ。

 干潟に近い町の食堂。地元の男性陣が隣席から教えてくれた。「力持ちというより、ここは抵抗の町だ」。食事後、ある場所に案内された。筏橋が舞台の小説「太白山脈」の文学館だった。筏橋のある全羅道では解放後から朝鮮戦争時に左派勢力が成長した。小説は、軍や警察の激しい鎮圧と抵抗を描く。

 小説原作の映画を見た。主人公は、当地の貧しさや対立の根源が「侵略した日本人や地主による農地の収奪にある」と語る。左翼は土地の無償分配を掲げた。劇中、「アカだから貧しくなるんだ」と叱責(しっせき)された農民は「貧しいからアカになったんだ」と反発する。

 そして、近所の子にけんかで負けて鼻血を流すわが子を母はこう叱る。「(鎮圧で亡くなり)父親がいないんだから、もっと強くなれ」。筏橋の男たちの強さの秘密を知った。 (辻渕智之)