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バンコク 頼もしい懸け橋たち

2012年04月03日

 「皆さんは忘れられない夜がありますか」

 バンコクのタイ商工会議所大学で行われた日本語スピーチコンテスト。4年女子のティーラガーンさんが話し始めると、大教室は静まり返った。

 ケンカや非行で高校を2度退学した。家を出て祖母と暮らしても酒やたばこをやめなかった。麻薬も吸った。

 ある夜、酔って午前3時に帰ると、祖母が寝ないで待っているのに気づいた。「どうして?」「あなたが帰るまで寝られません」。胸が痛んだ。「祖母は私を大切にしているのに、私は悪い友達を大切にしていました」

 その夜、自問を繰り返した。自分は何をしたいのか、大切な人は誰なのか…。そして答えを見つけた。「目標が分からなくても、もう一度勉強すれば分かるはず。一番大切な祖母が心配しないように大学で勉強しよう」

 採点ポイントは、内容、発音、話しぶりなどで、彼女は見事、優勝した。海外で30年間日本語を教えてきたベテラン講師の斎藤正雄さん(56)は「勉強が大変な日本語学科で、彼女はよく頑張った。日本語を話せるという自負が彼女を成長させた」と目を細めた。

 春から4年生は就職活動が始まる。企業やガイド、教師など、毎年多くの卒業生が日本語を生かした仕事に就く。日タイの懸け橋となる若者たちがまぶしく見えた。 (杉谷剛)