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ソウル 脱北者の孤独な闘い

2012年04月04日

 ソウルの中国大使館前。北朝鮮からの脱出住民を中国国内で拘束し、送還している中国政府に抗議するデモで、女性は訴えた。「韓国では、北朝鮮の住民よりもサンショウウオが大切ですか」

 女性は15年前、まだ4カ月の息子を背負って脱北した。定住した韓国では、工事で生息先の環境が壊れるサンショウウオを救えと訴えるデモに驚いた。「動物の命まで貴ぶ国民に感銘した」

 大使館前での抗議デモの参加者は毎回100人ほど。デモが盛んな韓国では多いとはいえず、彼女は同じ民族の苦しみへの関心の低さを嘆いたのだ。拘束された脱北者が送還されれば、北朝鮮の新体制は一罰百戒の見せしめに処刑する-。彼女らは強く懸念する。

 ソウル在住の別の脱北女性は先日、共に脱北した娘が高校に入学した。彼女は普段の仕事に加え、より良い就職を目指し、通信教育で英語や経営学の勉強を始めた。少ない休日は娘の学費を稼ぐため、チラシを街頭に張って回るバイトに忙しい。娘の入学式前夜、「疲れのせいか、ひどい頭痛に襲われて」と苦笑していた。

 彼女は食事の後、満足に食べられない北朝鮮の家族や知人を思い、時に涙ぐむ。彼女らは自分たちだけが脱北に成功した罪悪感も抱え、想像より孤独な闘いを強いられている。 (辻渕智之)