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メキシコ市 「あの日」ゆえ歌に涙

2012年04月24日

 その歌声に、胸が震えた。

 ♪知らず知らず 歩いて来た 細く長いこの道-。美空ひばりさんの「川の流れのように」だった。

 メキシコ市で立ち寄った料理店で、登場した伝統楽団マリアッチの男たち。黒い上下に金の刺しゅうを飾った衣装で決め、バイオリンやギターの演奏で朗々と歌い上げた。

 リクエストしたわけではなかったが、こちらを日本人とみて、歌ってくれたのだろう。一番はスペイン語、二番は日本語に切り替わった。

 ♪振り返れば 遥(はる)か遠く 故郷(ふるさと)が見える-。メキシコは日本から見れば地球の裏側。「本当に遠いなあ」と考えていたら、涙がにじんできた。祖国を離れ、この地で働く日系移民や駐在員たちが、どんな気持ちでこの曲を聴いてきたのかが分かる気がする。

 そんな気分を感じる場所は、今やメキシコだけではないと思う。日々の生活を送るワシントン、同僚の特派員が暮らすニューヨーク、北京、カイロ、モスクワ。おそらく世界中の日本人が、自分の心の中に潜む孤独や祖国への郷愁と向き合って暮らしているに違いない。

 ♪生きることは 旅すること-。1年前、東北を揺さぶった「あの日」がなければ、歌のセリフで涙する自分ではなかったけれど。 (久留信一)

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