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ソウル 一人デモ主張できる

2012年04月19日

 ソウルの官庁街の歩道では、たまに“かごめかごめ”のような光景に出くわす。「鳥」は、何らかの主張を書いたプラカードを手に立つ一人の市民。「かご」は5~6人の警官。無言で手はつないでいないが、輪になって取り囲んでいる。

 この10年来、韓国で増えた「一人デモ」の光景だ。一人だと集会、デモに該当しないので事前の届け出や警察の許可が不要。国会や外国公館の近くなど集会、デモが禁止の場所でも敢行できる。

 一人で立っていると寂しげだし、通行人の視線も集まらない。警官が囲んでいると、歩く妨げになる一方で、逆に関心を引く効果が出る。警察によると、周辺に関係者が待機して「純粋な一人」と認められないときや、他の集会やデモを妨害する形の場合などは警戒や退去要請、摘発の対象になるという。

 一人デモの主張には最近、経済成長を実感できない格差社会の是正を求める政権批判が増えた。就職難に苦しむ若者にそうした不満が強い。「1%の富裕層のための大統領はいらない」と掲げてデモ中だった中年男性は言った。「僕を囲む彼らも、社会に戻れば同じ思いを持つはず」

 「かご役」の大半は、兵役の代わりに警察任務に就く若者たちだ。メッセージは、彼らの胸にこそ届いているのかもしれない。 (辻渕智之)