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ルクソール 観光立国癒えぬ傷痕

2012年04月26日

 「5ドル(400円余)でいい、買ってもらえませんか」

 古代遺跡で世界的に有名なエジプト中部ルクソール。追い掛けてきた少年に懇願された。石を彫った鳥の置物を握りしめている。

 素人目にも、あまりいい出来栄えとはいえず、気の毒だがやんわりと断った。「父さんがつくったんだ。今日の僕の仕事はない」とうなだれる姿に、心が締め付けられた。

 巨大神殿やツタンカーメンの墓など見どころは山ほどあるが、外国人客は少ない。昨年2月の民衆革命後、政情の混乱や治安悪化で国内の多くの観光地は大打撃を受け、回復からほど遠いままだ。

 観光業者には死活問題。名所周辺では必死の形相で客に殺到し、あれこれ土産物を買ってもらおうとする。

 首都カイロの大手業者によると、ホテルの稼働率は大幅に低下。3隻のナイル川クルーズ船を保有するが、従業員を半分以上、解雇した。「ひとまず大統領選(5月)が終わるまで先の話はできない」とため息をつく。

 カイロ随一の土産物店が立ち並ぶハーン・ハリーリ地区さえ、客は少なく不振が見てとれる。値段交渉は楽しみの1つだが、店員に「われわれを苦しめないでくれ」と真顔で言われ、ハッとした。

 新たな国づくりにあえぐエジプト。1日も早く、にぎわいが戻ってほしい。 (今村実)