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モントリオール 異邦人の思いを映す

2012年05月11日

 カナダ・モントリオールのケベック大で米国の政治史を教える彼はニューヨーク育ちの米国人。ダウンタウンにある集合住宅で、シンガポール人の夫と暮らしている。

 「このあたりは移民が多く、地元の人は恐れて住みたがらない。ぼくらは異邦人だから平気なんだ」

 故郷のニューヨークは同性婚を認めたが、カナダで結婚した外国人の夫へのビザは発給されていない。ニューヨークで、2人そろって暮らせる日はまだ来ない。

 20世紀に起きた日系人強制収容など北米でのアジア系移民差別が研究テーマだ。欧米社会で差別を受けてきたユダヤ人という自らの属性が、この問題に関心を向ける背景になった。

 最初に書いた本では第二次大戦当時のルーズベルト大統領が強制収容の決定にどのように関わったのかを克明に追った。だが、研究を進めるうちに、日系人の心の中にもユダヤ人への差別意識が潜んでいることを知った。

 「彼らはユダヤ人を九一さんと呼んだ。九足す一は十(ジュウ)。英語ではユダヤ人の意味。米社会の支配層である白人社会への同化願望がそうさせたのでしょう」と言う。それでも研究への意欲は薄れなかった。歴史に翻弄(ほんろう)された日系人の姿に、自分と共通する異邦人のにおいをかいでいる。(久留信一)