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パリ 日本の新聞 文化包む

2012年05月16日

 「日本の新聞が欲しいのです」。支局を訪ねてきたビルの管理人は、切実な表情だ。

 どこで覚えたのか、日本語のあいさつをたくさん知っていて、毎朝、「オハヨウ」「ゲンキ?」「マタネ」と声をかけてくる面白い人物だ。ついに日本語学習を始めたのだろうと思った。が、彼の理由は想像を超えていた。「日本の新聞がないと食事が不便で…」

 西アフリカ・マリ出身の彼はいつも管理人室の奥で、昼食に郷土料理を郷土のやり方で食べていた。コメなどが入った皿を床に並べる。食べ物は手で直接口に運ぶのだという。その際、床を汚さないための敷物が必要なのだ。「ルモンドやフィガロではだめ。小さすぎる。日本の新聞が最高です」。比べてみたが、確かに仏紙より二回りほど大きい。

 彼は廊下に出していた本紙を以前から活用しており、その日はたまたまストックが切れていたのだという。

 マリはフランスの旧植民地。パリにも移民が多数いて、風習を守りつつ暮らしているそうだ。敷物扱いとはいえ、彼のおかげで多民族国家の興味深い事実と日本の新聞の大きさを知ることができた。

 ちょうどマリでクーデターが起きた時期だった。「家族は問題ない。でも国の将来が…」。不安げな彼に新聞を手渡すと大きな声で「アリガトウ」と返ってきた。(野村悦芳)