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ロンドン 観客のフェアプレー

2012年05月23日

 敵も味方もなかった。先月中旬、ロンドンで行われた英プロサッカーのトットナム対ボルトン戦。スタジアムを埋めた3万6000人の観客は、試合中に突然ピッチに倒れて危篤状態に陥った黒人選手へ懸命に励ましのエールを送り続けた。

 ボルトンのムアンバ選手を襲った事態の深刻さは、両軍選手が即座にベンチに救援を呼んだ様子で分かった。チームドクターや競技場の医療スタッフが駆けつけ心臓に電気ショックを与える医療機器、除細動器まで持ち込まれた。

 記者も観客席にいた。「試合は中止です」。ほどなくして流れた場内アナウンスはこれだけだったが、搬送先の病院による後日の発表によると、同選手はピッチに倒れてから「78分間、心肺停止の状態」だった。

 コンゴ(旧ザイール)出身の23歳は一命を取り留め、4月初旬には歩行ができるほどに回復。「奇跡の生還」は英国内で盛んに報じられたが、試合当日のスタンドの光景もまた感動的だった。

 やじで挑発し合っていた両軍ファンが、一丸となって同選手の名をコール。そればかりか、トットナムファンの1人は、循環器専門医であることを自ら申し出てピッチに入り、救命措置を手伝った。サッカーの「フェアプレー精神」を凝縮したような場内の一体感。胸が熱くなった。 (小杉敏之)

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