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彭沢 原発までかすむ腐敗

2012年06月04日

 中国内陸部で初の原発となる「彭沢(ほうたく)原発」の建設が予定されている江西省九江市彭沢県。建設手続きに虚偽データなどが使われ、近隣で反対運動が湧き起こったが、当の建設予定地は別の怒りに満ちていた。

 「悪い書記だった。みんな怒ってる」。彭沢県船形村の村民たちは声を荒らげた。5年ほど前までは、米やトウモロコシを作る農家500世帯が暮らす農村だった。原発用地に当たるため、村民の大半が立ち退きで家や農地を手放した。

 だが、村民が得た補償金は、相場の3割程度。残りは、当時の村トップの共産党村支部書記が横領したという。事実なら、中国の農村にはびこる典型的な腐敗の構図だ。

 真偽をただそうと、その元書記に取材を試みた。元書記は、ピカピカに磨き上げたアウディで農道を疾走して登場。車内から、用心棒風の若い男2人が飛び出してきた。土地の件を尋ねると、「知らない。誰が言ったんだ」とまくしたてた。

 村では今も、元書記に抗議し、立ち退きに応じない村民が暮らしている。原発が建設されれば、原子炉からわずか数100メートルの距離だが、村民は「原発のことはよく分からない。そんなことよりも土地の不正!」と口をそろえる。農民たちを苦しめる腐敗の根深さを、あらためて見せつけられた。 (今村太郎)