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アンタクヤ 苦戦を物語るため息

2012年06月11日

 握手した右手は思ったよりも細く、ひんやりとした。反体制派への武力弾圧を続けるシリアのアサド政権に対し、離反兵を率いて抵抗する自由シリア軍の指導者アサアド大佐。拠点のトルコ南部アンタクヤ近郊で会った。

 屈強な護衛兵たちが周囲を固めるピリピリした雰囲気。反骨の武闘派をイメージしていたが、物腰は紳士的で、初対面の記者の質問にも、穏やかな語り口で率直に答えた。

 政府軍を離反したのは昨年6月。「政権が国民を殺害するのが我慢ならなかった」という。離反直前に政権に疑われ1週間、拘束された。徹底した取り調べの後、いったん解放された際に隣国トルコへ脱出。いずれは暗殺されると感じたという。

 1万人を超える犠牲者が出たシリア危機は先月、国連主導で停戦入りしたが、衝突が止まらない。「政権の攻撃に応戦し市民を守るのは当然だ」と語る。

 語気を強めたのは介入に及び腰の国際社会に話が及んだ時だ。「各国が立場を変えなければ、殺人政権のパートナーと同じだ」と拳で机をたたいた。

 武力闘争には反体制派内にも否定的な意見があるが、「勝利は必ず訪れる」と大佐。ただ、会話の途中で時折漏らす小さなため息を何度か耳にした。苦しい戦いと、出国から間もなく1年という長い月日の経過を物語っていた。 (今村実)