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バンコク 開かれた?記者会見

2012年06月25日

 バンコクでタイ警察の幹部に人身売買の実態を取材したところ「ちょうど明日、日本のヤクザ絡みの事件の記者会見をするから来ないか」と誘われた。

 警察の会見を取材するのは初めてだった。大きなテーブルに大勢の捜査員に囲まれて普段着の男がただ1人、ぶぜんとした表情で座っていた。逮捕された55歳の容疑者だった。

 事件の概要は、長野県松本市に連れて来られた3人のタイ人女性が売春を強要されたというもの。3人は日本の暴力団関係者と結婚したことになっており、男は入国手続きを代行して被害者を日本へ送り込んだ容疑がかけられていた。

 日本では決して見られない光景だが、タイでは容疑者本人も会見に同席する。「ビザの手続きはしたが、3人が売春をさせられるとは知らなかった」。男は容疑をきっぱり否定した。真偽は分からないが、容疑者の言い分を直接聞けるのは、冤罪(えんざい)の可能性を探るという点で、とてもいいと感じた。

 会見を終えた幹部に「日本のヤクザって、どの暴力団ですか」と聞いた。日本側で逮捕されたのはスナック経営者らタイ人の男女数人で、暴力団関係者はいなかった。幹部は「日本の警察からあまりしゃべるなと言われている」とピシャリ。日本で何度も味わったあの苦い体験がよみがえった。 (杉谷剛)