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ダマスカス 平穏の陰密告の不安

2012年06月21日

 熱気あふれる集会を予想していたが、すっかり拍子抜けした。政情不安が続くシリアの首都ダマスカス。アサド政権の支持派が集結すると聞いて出掛けたが、広場に集まったのは2、300人だった。

 司会者は困った様子で「人数は重要でない」と強弁。大音量の音楽で必死に盛り上げようとする。「民衆はアサドを望む!」。参加者はお決まりのスローガンを絶叫するが、どこか上滑りだ。

 参加者が少ない理由を警備の兵士に聞くと「始まったばかりだからさ。今にどんどん増えるから」。タクシーの運転手に尋ねると、「知らないのか。2時間前には大勢集まったが、大半はもう帰ってしまったんだ」。

 どちらも真っ赤なウソだ。好んで集会に参加する人など少ないのが実態なのだろう。

 40年に及ぶ強権支配が続いてきたシリアでは、人々は密告を恐れて本音を言わない。下町で出会った青年がそう、明かした。

 「外国人記者のあんたと話している姿を、今、誰がどこで見ているか分からない。明日ここへ来て、俺が逮捕されたか確かめてみなよ」と目配せした。

 迷路のように入り組んだ旧市街は風情があり、夜は大勢の市民であふれる。散歩や食事を楽しむ姿は一見、平穏そのものだ。だが、心の中では誰もが不安を抱えているのだと悟った。 (今村実)