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ロンドン 輪に入りたいだけ・・・

2012年06月26日

 「君たちはどこから来たんだ?」。店主の顔が瞬く間にこわばった。

 ロンドン五輪のメーン会場、五輪公園に程近いロンドン東部のウォルサムフォレスト区内。英国人の助手と入ったフィッシュ・アンド・チップスの小さな売店で、店名について質問した時だった。

 看板には「OLYMPIC」(オリンピック)。5年前、世紀の大イベントを迎えるにあたり店名を変更したという。業種こそ違うが、貧困地区である周辺の商店にも同様の店名が幾つもあった。

 ところが、これが立派な「違反」。ロンドン五輪組織委員会と国際オリンピック委員会は、大会公式スポンサー企業の利益保護を理由に、厳しい広告規制を敷いている。

 「オリンピック」どころか、「2012」「メダル」「金」「銀」「銅」といった五輪を連想させる言葉や標語の使用も禁止というから恐れ入る。

 当然、店主も知っている。われわれを調査に訪れた役人と勘違いしたようだが、いつおとがめを受けてもおかしくない。「役場の命令には従う」と答えたが、そもそも店名を変更した動機は素朴。「道行く人々が喜んでくれると思ってね」

 仮に売上金が伸びたとしても、五輪の巨額利権を脅かすとまではいえまい。店主の動揺ぶりを気の毒に思う。 (小杉敏之)