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上海 突貫工事教訓どこへ

2012年07月23日

 自宅近くで、上海地下鉄の新駅の工事が進んでいる。その現場をぐるりと囲むようにして設けられた防護壁が、ぎっしりと落書きされる騒動が最近起きた。

 落書きしたのは、近所の住民有志。深夜早朝も掘削を続ける重機の大騒音に耐えかね、「近隣のことを考えろ」「市政府は何をしてるんだ」「うるさくて眠れない!」と、文句を書き殴ったのだ。施工業者は臨時に労働者を雇い、落書き消しに追われた。

 上海の地下鉄は1995年に開業。わずか15年でロンドンを抜き、世界最長となった。驚異的なスピードで整備が続き、8年後の2020年には、現在からほぼ倍増の21路線、約980キロに延びる。間に合わせようと昼夜続けられている工事が、住民の怒りを買っている。

 日系重機メーカーの幹部に聞くと、中国では重機を長時間連続で酷使する傾向が強いため、燃費の良い機種を重点的に売り込んでいるそうだ。いかに突貫工事が横行しているかの傍証ともいえよう。地下鉄だけではない。昼夜問わずの工事現場にはそこかしこで出くわす。

 昨年の高速鉄道や上海地下鉄の事故では、安全置き去りの急拡大路線が批判の的となった。教訓が早くも忘れ去られていないか、現場を見るたびに案じてしまう。(今村太郎)