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ソウル 脱北女性の結婚事情

2012年08月09日

 知人の脱北女性が結婚するという。

 40代でアパートに1人暮らし。同じく脱北した10代の娘もソウルにいるが、学校近くの寄宿舎に住む。北朝鮮にいた当時は、夫が仕事も家事もしないのが嫌で離婚していた。

 最近、1週間ほど頭痛がひどく、部屋に1人で横になっていたという。「このまま、誰も知らないうちに倒れて死ぬんじゃないかって」。そんな不安に襲われたのが再婚を考えた理由だと聞いた。

 結婚披露宴を兼ねた食事会が開かれた。私の目の前に座ったのも偶然、別の40代の脱北女性だった。

 この女性は中国で一稼ぎして北朝鮮に戻るつもりが、ブローカーに返す借金分を稼げず帰れなくなった。中国に長居すれば捕まるので韓国行きを決意した。以来、北朝鮮に残る息子や家族とは何年も会えない。「再婚した彼女の気持ちはよく分かる」と話した。

 新婦の事情も似ている。中国の食堂で働いた。給料のピンハネがひどく、抗議したら通報されて捕まりそうになり、韓国に来た。

 白いウエディングドレスで着飾った新婦の相手はソウル在住の朝鮮族中国人だった。後日、新婚生活の感想を尋ねた。「中国の男性だから、食事はいつも彼が作ってくれる。同じ朝鮮民族の男でも国境の川を越えたら違うのよ」。うれしそうだった。 (辻渕智之)