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ロンドン 窮地きついユーモア

2012年09月26日

 ロンドンの地下鉄で通勤途中、車内の壁に違和感を感じた。いつもは「優先席」と表記された青いシールがある場所に、サイズとデザインが全く同じ紫色のシールが貼られていたからだ。

 表記を読むと、ドキリとした。「電気椅子」。下段の断り書きも本来は「妊婦や体の不自由な人のための席」と書かれているはずだが、紫のそれは「殺人者や子供への性犯罪者、臭いのきつい通勤者のための席」とあった。

 英国流のジョークだろう。オチの引き合いに出された言葉は物騒だが、思わず苦笑。優先席をいたずらに使う賛否はさておき、車内で臭いが気になる瞬間は日本以上に多いかもしれない。

 1863年に世界で初めて開通したロンドンの地下鉄は、あらゆる面で構造が古い。とくにトンネルの形状に合わせた車両は「かまぼこ型」で、必然的に車内空間が狭くなる。

 もともと冷房機もないため、夏場の混雑時は蒸し風呂のような状態。噴き出す汗に加え、他人の香水の臭いやアルコール臭などが交じって充満し、不快感が増幅する感じだ。

 ただ、こうした感情を露骨に表現しないのが英国人。窮地にこそユーモアのセンスが求められる。期せずして目にしたシールを、無理に剥がそうとする乗客もいなかった。 (小杉敏之)