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ローマ 高い「土産」認識甘く

2012年09月25日

 「ローマ土産」にする特産品は? 名物とは言えないが、サンピエトリーニと呼ばれるローマの舗石をかたどったビスケットがある。本物の石の工芸品は値がはるが、微細で描写も精密なモザイク画もあり、これも悪くない。

 この舗石とモザイクが「特産」と知ってか、ビスケットならぬ本物を「土産」にしようとする観光客が後を絶たない。空港の荷物検査で、古代ローマの港湾都市オスティア遺跡の床モザイク断片、市中の新旧石畳の石片、古代里程標識の石柱断片などが次々に見つかった。

 ロシアやドイツからの観光客は一様に「悪気はなかった」。北欧の観光客が最も多い。良識派に見える中年も含め犯罪とは思っていないようだ。

 古代遺跡と現代生活の舞台が混然一体となっているローマ。何げなく踏んでいる石に2000年の歴史があることも。欧州人にとってルーツのような古代ローマの「一片」を持ち帰りたい気持ちは分からなくもない。遺跡内は監視の目も緩く、その気になればいくらでも手に取れる。

 日本からの客人が、しきりに遺跡の床モザイクを靴先でつついている。地面から離れれば、拾っても悪くないとの判断だったのか。見て見ぬふりをし、モザイク片を手にしたか確認しなかった自分をいま恥じている。

  (佐藤康夫)