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トリポリ 平和の祭典誇らしく

2012年10月05日

 3色の新しい国旗を掲げる小さな選手団は、画面でもひときわ誇らしげに見えた。42年に及んだカダフィ独裁体制が倒れ、国の再建途上にあるリビア。ロンドン五輪に、柔道や陸上競技など数人の選手を派遣した。

 五輪前、議会選が開かれた首都トリポリで、リビア・オリンピック委員会の副会長クレイクシさんを訪ねた。休日だったが、「新生リビアで取材を受けることがうれしい」と笑顔で出迎えてくれた。

 最高指導者カダフィ大佐=死亡=の旧政権は、スポーツを見下していたという。「競技でたとえ世界一になったとしても、国内ではスターになれなかった。なぜなら、この国でスターになるのが許されたのは、カダフィ一族だけだからだ」

 選手らへの資金支援は乏しく、五輪選手がヒッチハイクで移動することも。特に個人種目の環境は厳しかった。働きながら練習時間を確保するのは容易でなく、失望し競技を断念する選手もいた。

 体制打倒を目指した内戦では、多くのスポーツ選手も死傷。ボートの国内王者は腕を失ったという。「自由を求めて戦った若者は誇り」と、元ボート選手のクレイクシさん。

 政治と暴力に翻弄(ほんろう)された時代を経て、大きな一歩を踏み出したリビアの五輪選手たち。平和の祭典の意味を、誰よりもかみしめているだろう。 (今村実)