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温州 慰霊もできぬ理不尽

2012年10月04日

 昨年の中国高速鉄道追突事故で、真っ先に救出活動を行ったのは、浙江省温州市の現場近くに住む出稼ぎ労働者たちだった。

 労働者たちは車両が高架から落下したごう音を聞くと、大雨の中、自宅から飛び出し竹を組んだ手作りのはしごで車両によじ登り、けが人を引っ張り出した。

 彼らの仕事は、日用品の製造や廃品回収などで、月給は2000元(約2万5000円)にも満たない。ぼろぼろのTシャツ姿の人もいれば、上半身裸の若い男性も。ネット上では、人命軽視の鉄道省への当て付けも込めて、称賛の声が上がった。

 事故から1年となった7月23日、彼らのもとを訪ねてみた。黄利成さん(23)に「遺族はみんな、多少は元気を取り戻しましたか」と逆に質問された。

 黄さんは、1年の節目に、遺族とともに犠牲者の慰霊をしたいと願っていた。だが、慰霊行事はなく、現場に行けば、逆に監視の公安当局から目を付けられてしまう。黄さんは「なぜこんなことになるのか、怒りを通り越し、悲しい…」と深いため息をついた。

 結局、23日、現場には市民十数人が献花に訪れたのみだった。黄さんら近隣の出稼ぎ労働者たちは、遠巻きに手を合わせた。事故を起こした張本人の鉄道省からは、誰も献花に現れなかった。 (今村太郎)